価格と利益の計算室|回数券と割引の採算
回数券の割引は何件増えれば利益を維持できる?利用単価と予約枠から計算
「5回分まとめて購入してもらえるなら、少し安くしても大丈夫だろうか」。個人サロンやレッスンで回数券を検討するとき、割引率だけでは採算を判断できません。料金を下げても、1回ごとの材料や提供時間はそのままかかるためです。
まず回数券を1回あたりの料金へ直し、割引前と同じ利益を残すために必要な利用件数を求めます。その件数が予定表に収まるかまで確かめると、割引条件を検討しやすくなります。
以下は、同じ内容・同じ長さのサービスを提供し、回数券を全回利用した場合の架空の試算です。1回の利用が1予約枠を使い、キャンセルや返金、未利用分、追加の集客費用は含めません。相場・需要の予測や推奨価格を示すものではありません。
1.回数券の金額を「利用1回あたり」にそろえる
通常料金が1回8,000円なら、5回分の通常合計は40,000円です。5回券を36,000円にすると、1回あたりは7,200円、割引率は10%になります。
1回あたりの料金=回数券の価格÷利用回数
割引率=1−回数券の価格÷通常料金の合計
この例では「回数券を1枚売ること」と「サービスを5回提供すること」を分けて考えます。後の表にある利用61件は、回数券を61枚販売するという意味ではありません。券の枚数ごとに集客を計画する場合は、別に換算してください。
2.10%の割引でも、1回の残額は10%以上減る
料金以外の条件を次のようにそろえます。材料費や時間の評価額は、通常利用と回数券利用のどちらにも同じ金額を使います。
| 項目 | 架空の条件 |
|---|---|
| 通常料金 | 8,000円/回 |
| 材料等の変動費 | 1,000円/回 |
| 売上にかかる手数料率 | 3% |
| 準備・片付け込みの提供時間 | 1.5時間/回 |
| 自分の時間の評価単価 | 1,500円/時間 |
| 月間固定費 | 50,000円 |
| 割引前の月間利用件数 | 50件(すべて実施) |
| 月に用意できる予約枠 | 60枠 |
時間の評価額は1.5×1,500=2,250円です。固定費を差し引く前の、利用1回から残る金額を計算します。
利用1回の残額=料金×(1−手数料率)−材料等の変動費−時間の評価額
- 通常:8,000×0.97−1,000−2,250=4,510円
- 10%割引:7,200×0.97−1,000−2,250=3,734円
料金の割引は10%ですが、1回の残額は776円、約17.2%減ります。材料費と提供時間が変わらないため、料金の割引率と、残る金額の減少率は一致しません。
通常料金で月50件を実施したときの参考利益は、4,510×50−50,000=175,500円です。以降は、この金額を維持する条件を考えます。
ここでいう参考利益は、自分の時間の評価額を費用として差し引いた値です。現金収支や会計上の利益、税引後の手取りとは異なります。同じ人件費・時間評価額を別の費用にも含めている場合は、重複して差し引かないようにします。
3.割引後に何件の利用が必要かを求める
必要な利用件数=(維持したい参考利益+月間固定費)÷割引後の利用1回の残額
件数として使うときは、最後に端数を切り上げます。
10%割引では、225,500÷3,734=約60.39件なので、必要な利用件数は61件です。月50件から11件、22%増える計算になります。
| 条件 | 1回の料金 | 1回の残額 | 必要利用件数 | その件数での参考利益 |
|---|---|---|---|---|
| 通常料金 | 8,000円 | 4,510円 | 50件 | 175,500円 |
| 5%割引 | 7,600円 | 4,122円 | 55件 | 176,710円 |
| 10%割引 | 7,200円 | 3,734円 | 61件 | 177,774円 |
必要な件数は、同じ参考利益以上になる最小の整数です。割引で新規客や継続利用がこの件数まで増えるという予測ではありません。また、この比較ではすべての利用を各行の料金で計算しています。通常利用と回数券利用が混在する場合は、それぞれの残額×利用件数を合計し、共通固定費を一度だけ差し引きます。
1回の残額が0円以下の場合、利用を増やすだけでこの正の目標利益に届かせることはできません。料金か費用、サービス内容から見直します。
4.必要な件数が、予約枠を超えていないか確認する
月60枠しか用意できないなら、10%割引で必要な61件は予定表に収まりません。60枠がすべて埋まっても、3,734×60−50,000=174,040円。通常料金で50件を実施した場合より、参考利益は1,460円少なくなります。
さらに、実際にはほかのメニューや通常料金の予約にも枠を使います。回数券の販売枚数だけを見ず、すでに販売した券で今後何回の利用を受ける必要があるか、希望が集中する曜日や時間帯に対応できるかも確認します。
月間合計の時間が足りていても、日ごとの端数や休憩によって枠が不足することがあります。枠の数え方は、必要予約数と稼働率の解説をご覧ください。
5.割引を決める前に比べたいこと
- 通常料金と回数券を、同じ利用1回あたりの料金にそろえる。
- 材料費・手数料・準備を含む時間の評価額から、1回の残額を求める。
- 同じ参考利益に必要な利用件数を計算する。
- 通常利用やほかのメニューも含め、予約枠に収まるか確認する。
- 集客費用、キャンセル、利用が集中する時期を別に見込む。
割引後の料金だけでなく、特典の提供にかかる材料や時間が増える場合も試算し直します。反対に、準備をまとめられるなど実際に費用が減るなら、その根拠を確認して反映してください。
回数券を販売した時点の入金と、後から発生するサービス提供の負担は、タイミングが異なります。この記事は利用1回の採算を比べるためのモデルで、前払い残高、未利用・返金、有効期限、会計処理や販売条件を扱うものではありません。
料金を決める基本はサービス業の料金の決め方を、複数メニューの比べ方はサービス別の利益比較をご覧ください。
1回あたりの料金と費用を置き換えた比較には、サービス業向けExcelの実画面と機能も確認できます。Standardは1種類のサービス、Proは最大6サービスの採算・時間配分の比較に対応します。回数券の発行、残回数管理、入金・前払残高の管理機能はありません。
「割引しても何となく大丈夫」から、1回の残額と受け入れられる件数を見て判断する。そのための比較材料として活用してください。